Top Commitment

この先も存続・発展し続けられる地球・社会、そして会社に/代表取締役社長 藤岡 高広

2020年度を振り返って

2020年、愛知製鋼は創立80周年を迎えました。当社事業を興し会社設立へ導いた豊田喜一郎の言葉「よきクルマは、よきハガネから。」を原点に、自動車産業の草創期、自動車用特殊鋼の製造という未開拓の道を歩み始めました。80年前から当社に受け継がれているのは、「未来への使命感」と「未知への挑戦」というDNAです。私が社長に就任し11年、社会や鉄鋼・自動車業界は変革の時代を迎え、当社においては、決して忘れてはいけない2016年1月8日、知多工場で発生した爆発事故(「1.8」)など、様々な試練を経験する中、個の力を組織の力に変え、年輪的成長※1につなげることができたと考えています。2020年度における新型コロナウイルス感染症への対応は、「1.8」の経験で得られた知見や体制づくりに活かすことができました。即断即決のマネジメントで対策本部、サポートセンターを立ち上げるとともにテレワークを拡充させ、安全を第一にしながらも、生産性を下げることなく業務を行える環境の整備につなげました。このようなコロナ禍で得た学びは、「新しいビジネス様式」として5つのテーマに整理し、新中期経営計画や働き方改革において取り入れています。

2020年度は、コロナ禍による販売数量の大幅な減少と主原料の鉄スクラップ価格の高騰によって非常に厳しい経営環境となりました。上期においては生産量が30%減少し、営業利益は27億円の赤字となりましたが、下期に需要が回復し、限量経営を強力に推進した結果、原材料価格の急騰と上期の赤字を吸収し、通期では売上高2,049億円、営業利益35億円、親会社株主に帰属する当期純利益30億円と黒字を達成しました。

私は、閉塞感が蔓延するコロナ禍では、社員の士気を維持・向上させるために黒字に徹底的にこだわる必要があると考えました。そこで、原材料価格や需要といった外部環境は当社でコントロールできませんが、自社が努力できること、つまり「限量経営」の実践を徹底しました。限量経営は、コストを低減し損益分岐点を下げ、それを維持することで少ない生産量でも利益を出せる体質を構築するものです。固定費・変動費を決めて細かく管理することや、設備の寄せ止め※2をするなど非常に地味な活動ですが、カンパニーごとに徹底して実践しました。こうしたことを継続し続けることが重要で、販売数量が回復したときには利益の最大化という大きな実りをもたらします。今回、数字として目に見える形でその成果が表れ、社員のモチベーションにも良いインパクトをもたらしたと実感しています。当社は、原材料価格が収益に大きく影響する構造だからこそ、変化に対して弾力を持った生産体制で利益を出し続けられる企業となるべく、限量経営の実践に注力していきます。

※1 年輪的成長:環境変化に動じず年輪を刻む木のように、少しずつでも継続して成長すること

※2 寄せ止め:複数の生産設備やラインを集約し、余剰の設備、ラインのスペース、人員を有効活用することで、稼働率の向上をはかる

愛知製鋼グループ2030年ビジョン策定

コロナ禍だけでなく、サステナビリティやSDGsといった考えに基づく社会的なパラダイムシフトが起きている今、当社が年輪的成長を続けるためには、長期的な視点のもと、社会の変化に対応していく必要があり、それを実現するには、愛知製鋼の軸となるものが不可欠だと考えました。そこで、2017年には「カンパニー制」の導入、2018年には愛知製鋼グループの全社員が持つべき普遍的な価値観・行動規範である「Aichi Way」の策定、2020年には「ブランドスローガン」および労使一体の体制強化である「労使協調宣言」など、多岐にわたるフレームワークを策定してまいりました。そして先行き不透明なこの時代において、将来からバックキャストしてESG経営を前提に事業に取り組む必要があると改めて認識し「2030年ビジョン」を策定しました。

「2030年ビジョン」Company of Choice Globally

基本方針 事業とモノづくり力の変革で収益力を向上させESG経営を実践
経営指針 (1)持続可能な地球環境への貢献
(2)事業の変革で豊かな社会を創造
(3)従業員の幸せと会社の発展

向かうべき方向を明確にすることは、社員の視点が変わり、事業や投資の選択が近視眼的にならず、先を見て決断できることにつながります。「2030年ビジョン」のスタートとなった2020年度は、グループ全社員に向け理解や浸透が深まるよう各カンパニー、本部が一体となって活動しました。策定から1年あまりですが、社員たちの意識が目に見えて変化し、考え方や発言、判断にその成果が表れ始めています

激変する経営環境に立ち向かう

多くのフレームワークを固め、愛知製鋼の確固たる軸を明確にしてきた上で、私たちが組織として今向き合うべきは、「CASE」と「カーボンニュートラル」であり、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」で会社の基盤を強化し、より本質的な取り組みを加速させていくことだと認識しています。

CASE

自動車産業で進む「100年に一度の大変革期」を乗り越えるには、「CASE」の「A:自動運転」、「E:電動化」に対して貢献できる製品を提供することが必要となります。引き続き、従来の取り組みへの加速度を増し、更に強化・推進していきます。

自動運転支援システム「GMPS」
自動運転支援システム「GMPS」

カーボンニュートラル

政府が進める「2050年カーボンニュートラル」は、当社のような電力多消費型の企業にとっては大きなインパクトのある取り組みになります。しかし、これは使命を持って取り組むべき課題であり、エネルギーコストや開発コストの大幅な負担増が考えられるなど高いハードルがありますが、当社にとってチャンスでもあると捉えています。政府や他産業、そして競合他社とも連携を図りながら、私をトップとした実行体制のもと、2030年までにCO2排出量35%削減(2013年比)を目指し、2050年をゴールとしたカーボンニュートラルの実現に挑戦していきます。

目標達成に向けて、画期的なCO2削減の技術開発を行うなどと同時に、今まで継続してきたこと、今できることを徹底してやり続けることに注力していきます。1つひとつの工程において、いかに電力消費を抑えて生産活動を行うか、省エネを実現する技術をいかに開発するか。こうしたことを各組織においてきちんと整理し、目標を立て、確実に実践すれば達成できることを示し、社員が前に進められるようにします。これまで培ってきたトヨタグループならではの「カイゼン力」は、脱炭素においても必ず発揮できると確信しています。これまで多くの試練を乗り越えてきたこの力を、よりスピード感を持って積み上げていくことで、カーボンニュートラルの実現に向けて取り組んでいきます。

2020年に竣工した電気炉の排熱回収設備
2020年に竣工した電気炉の排熱回収設備

デジタルトランスフォーメーション(DX)

情報の質を向上させ、マネジメントのスピードアップを実現するDXは、事業に変革をもたらし、「2030年ビジョン」の経営指針である「事業の変革で豊かな社会を創造」を支えるものです。2021年4月、全社横断の組織を立ち上げ、5つのテーマごとにリーダーを配置、いつまでに何をどう進めるかを明確にし、モノづくり、人づくりの基盤を強靭化する取り組みに着手しました。

全社横断の組織にしたのは、取り組みを俯瞰するためです。会社全体に関わる仕事は、各部署、各組織だけで完結するものではなく、つながりがあります。自分たちがやるべきことが、どうつながり、最終的に何を生み出すのか、という全体像を理解してほしいと思いました。

この組織の下で、カンコツ・暗黙知で進めていた仕事のデータ化や、各工程で部分最適となっているデータの整流化などに取り組み形式知化することで、スピーディな経営につなげるとともに、知的生産性の向上で社員のやりがいを高めていきます。

DXの5つのテーマ

激しく変化し続ける経営環境下において私がなすべきことは、目指す方向を示した上で、間違いなく進んでいるか、進むための方法は適切であるかを判断、指揮することだと認識しています。もし経営環境に変化があれば、仕切り直して、また進めば良いと思っており、「2030年ビジョン」でさえ不変ではないと考えています。この時代、重要なのは「先を読んで走る」ことだからです。

詳しくは「事業環境の変化」をご覧ください

新中期経営計画の位置づけとポイント

2021年4月、3年を期間とする新中期経営計画(新中計)をスタートしました。新中計は「2030年ビジョン」の実行計画で、「2030年ビジョン」実現に向け最初の3年間で取り組む重要課題や道筋を具体的に示しています。日常業務の中で自分たちは何をすべきなのかまで落とし込むことで、全社員が「2030年ビジョン」実現という同じ方向性を共有し歩みを進めることができます。

また、ビジョンは経営層だけが旗を振っても実現できないことは明白で、「1人の100歩」ではなく「100人の1歩」を大切に、全員参加で組織として歩んでいくものです。新中計では、全社員が1歩、1歩進んでいることを実感できるような3年間にしていかなければならないと考え、社内報で私の想いを発信するなど、社内に新中計への理解・浸透が深まる情報発信を自ら率先して行っています。

新中計において私がポイントとしている点は4つあります。

1つ目は、「両利きの経営」を実践することです。鋼や鍛は、このままの事業では右肩下がりになることは目に見えているからこそ、付加価値をつけ収益を維持できる製品にしなければなりません。一方でステンレスやスマート分野には、新たなビジネスを創出する機会があります。新中計において「両利きの経営」を実践し、収益の維持と拡大を両立していきます。

2つ目は、「カーボンニュートラル」「CASE」「DX」について、この3年の具体的な目標を設定し、推進体制を着実に運営していくことです。ここでしっかりとした基盤をつくり、2024年度以降のビジョン実現への取り組みを支えます。なお、当社は2021年4月、経済産業省が定める「DX認定事業者」として認定されており、今後も取り組みを強化していきます。

3つ目は、企業の底力をつけるため継続して取り組んでいる限量経営の実践と自工程完結の徹底です。当社は、限量経営の地道な実践で今後も変化に対して「上方・下方」両方の弾力性を持って利益を維持できるよう、体質強化の取り組みを全社で着実に進めていきます。

また自工程完結とは、良い仕事をするために部分ではなく全体を見た上で、自分がやるべき仕事を明確にするものです。そして、自身の後工程を担う社員の仕事がミスなく円滑に進むよう、自分の仕事を見直し、改善を繰り返します。言い換えると、本人が自分の仕事に対して自信を持って自慢できる仕事をするということで、生産現場だけでなく本部など、どの仕事においても基本であるといえます。当社では、チームリーダーに昇格した社員に対して自工程完結の研修を2018年から展開し、職場で実践・指導できるよう環境を整えています。そのほかにも問題解決やTPS※3など教育体系の整備を継続的に進めており、これらの人材育成の取り組みにより1人ひとりの能力を高めることで組織としての力を向上させていきます。

4つ目は、コロナ禍で得た学びを企業の成長に活かすという視点で、「新しいビジネス様式」(① 安全・安心な職場環境、②全てのステークホルダーへの貢献、③ワーク・ライフの充実、④自律型人材の輩出、⑤TPSに基づいた原価低減の推進)を新中計に盛り込みました。アフターコロナにおける様々な社会・考え方の変化にもしっかり対応していきたいと思っています。

また、これらの達成を支えるしくみの1つとして、役員体制を刷新しました。激しい環境変化に対応できる意思決定の迅速化と業務遂行のスピードアップを目的に、体制を大ぐくり化し、階層・人数ともに削減してスリム化するとともに、肩書よりも役割を重視したものに見直しました。新しい体制の下で、新中計実現に向け4つのポイントに注力していきたいと思います。

※3 TPS:トヨタ生産方式

新中期経営計画の概要

新中計の施策は、「2030年ビジョン」の3つの経営指針を具体化していくものです。

「持続可能な地球環境の貢献」では、4つのR(Reduce:減らす、Reuse・Recycle:再利用、Renewable:再生可能)の視点でカーボンニュートラルへの画期的な技術開発と改善を進めます。私をトップとした推進組織「カーボンニュートラル推進体系」では、エコマネジメント、エコエネルギー、エコプロダクションの3本柱で、企画、技術革新、省エネルギー、プロセス改革、自然環境保全、エコ製品分科会の6つの分科会を構成し全社で取り組んでいきます。

「事業の変革で豊かな社会を創造」では、既存事業の変革による付加価値のある製品づくりと「CASE」など次世代分野へ向けた開発を加速していきます。そして、その実現のために「従業員の幸せと会社の発展」を追求し、多様な人材が活躍でき、従業員がイキイキと働くことができる環境の構築を継続して進めます。

詳しくは「2030年ビジョン」、ステンレススマートカンパニーの「中期経営計画実現のための戦略」をご覧ください

生き残りをかけた将来へのチャレンジ

愛知製鋼は、鋼をゼロからつくる決意でスタートした企業です。その高い志と創意工夫は当社のDNA・強みであり、また財産として今の私たちに受け継がれています。それを行動指針として具現化したものが「Aichi Way」です。当社は、トヨタグループ唯一の素材会社であって、トヨタグループ成長のために良品廉価な製品を供給する義務があります。そうした意識と実践によって培われた高品質の製品をつくり出せる特殊鋼の技術は、トヨタグループのみならず、グループ外からも評価され、お客さまの事業に貢献しています。

更に日本の鉄鋼業界における特殊鋼は、優れた品質や高い生産性、独自のノウハウによる高い技術力・競争力を保持しており、海外攻勢からの最後の砦とも言えます。社会的な情勢から見ると鉄鋼業界は、非常に厳しい環境に置かれていますが、愛知製鋼は、日本の特殊鋼を担う企業として、トヨタグループの成長を支える企業として、カーボンニュートラルなど難しい課題にも果敢に挑戦し、存在価値を高めていきます

非常に厳しい時代だからこそ、私はテーゼ(意志を持った主張)として「サバイバル」を掲げたいと思います。明確なフレームワークの策定・共有とその継続的な実践により、私たちは「1.8」をはじめとした多くの困難を学習の場とすることができました。経験値と知見を積み上げ、生き抜くための力が格段に上がってきていると感じています。生き抜くための力とは「人の力」です。今後も人材育成に注力し、経営理念の1つとして掲げられているように、全社員が「常に時流に先んずる」意識を持ち、どんな環境変化にも対応できる底力をつけて、前向きに乗り越えていけるような風土をつくっていきたいと考えています。取り巻く環境の変化は激しさを増し、私たちはこの厳しい時代の中を生き抜いていかなくてはなりません。全社員が「サバイバル」の共通意識を持ち果敢に挑戦を続けていけるよう、私は先頭に立ち、旗を振り続けていきます。

当社がこの先、何十年にもわたって存続・発展し続けられる会社にしていくこと。そして未来の社員が笑顔で働ける会社にしていくこと。それらが私に与えられた責務と捉え、精いっぱい取り組んでまいります。