PDMA

不良土壌での食糧増産を可能にする次世代鉄肥料

食糧問題

2050年には人口が100億人近くになるとされ、食料不足になることが懸念されています。
都市化による都市近郊の農地の減少も起きつつあります。これまで生産性が低いとされていた農地での食糧増産ができれば世界的なサステナビリティ社会に貢献できると考え、アルカリ土壌で不足する鉄分を供給する生分解性の次世代鉄肥料を開発しました。農業用途に使用できるように、安価に製造する方法に取り組んでいます。

PDMAとは?

愛知製鋼と徳島大学が共同開発したプロリンデオキシムギネ酸の略。イネ科植物の根から分泌されるムギネ酸の類縁天然物であるデオキシムギネ酸(DMA)の化学合成の原料に用いられる不安定かつ高価な「L-アゼチジン-2-カルボン酸」を、安定かつ安価な「L-プロリン」に変更して合成したもの。

アルカリ性不良土壌への取組み

植物の鉄吸収促進

世界の陸地の1/3はpHが7以上のアルカリ性土壌。そこでは植物の生育に不可欠な鉄分が水に溶けない不溶態鉄として存在しているため、植物が生育に必要な鉄を十分に吸収できません(鉄欠乏)。

写真:アルカリ性土壌での植物の生育例
アルカリ性土壌での植物の生育例

PDMA

アルカリ性土壌でも植物が鉄分を吸収できるように愛知製鋼と徳島大学が共同開発したものがPDMA(プロリンデオキシムギネ酸)という次世代鉄肥料です。
アルカリ性土壌にPDMAを散布することによって、植物は鉄を吸収することができ、鉄欠乏から効果的に回復できます。

用語解説

  1. ムギネ酸
    植物が分泌する天然の鉄キレート物質。1976 年に岩手大学の高城成一博士が 「ムギの根から分泌する酸」として発見し、1978 年にその化学構造式が 竹本常松博士らによって決定され、この名が付けられた。
  2. 鉄キレート
    「キレート」はギリシャ語で「蟹のはさみ」の意。鉄イオンを取り囲んで アルカリ土壌中でも安定に存在させる物質。

参考資料

論文発表時(2021年3月11日)

写真:PDMA粉末の外観
PDMA粉末の外観
PDMAの構造
PDMAの構造

植物の鉄吸収メカニズム

イネ科植物の鉄吸収機構

図:イネ科植物の鉄吸収機構

イネ科以外の植物の鉄吸収機構

図:イネ科以外の植物の鉄吸収機構

イネ、ムギ、トウモロコシなどのイネ科植物は、根からムギネ酸を分泌して、土壌中の不溶態の鉄を溶かして「ムギネ酸類-鉄錯体」として吸収します。PDMAは自然のムギネ酸と同じ働きをして、植物に鉄を吸収させます。
イネ科以外の植物は、根の還元酵素で土壌中の3価鉄イオン(Fe3+)を2価鉄イオン(Fe2+)に変換してから吸収しますが、ムギネ酸-鉄錯体やPDMA鉄錯体も2価鉄に還元されやすいため、全ての植物に対してPDMAは効果的です。

環境への優しさ

アルカリ性土壌でも植物が鉄分を吸収できるように、アルカリ性でも安定な「人工鉄キレート材」が農業で使用されているものの、土壌に残留するため環境への負荷が懸念されています。
一方、生分解性の鉄キレート材であるPDMAは土壌で分解されるため、環境負荷が小さくなります。

合成キレート鉄とPDMAの分解性の違い

炭素源としてキレート物質(合成キレート、PDMA、クエン酸)を用いて微生物を培養し、日数経過とともに培養液の残存炭素量の推移を測定。合成キレート(EDTA)は微生物に分解されないため、培養液中の炭素量が減りません。

各種キレート物質の微生物分解性試験(OECD301A)
グラフ:各種キレート物質の微生物分解性試験(OECD301A)

効果

アルカリ性土壌におけるイネの屋外栽培実験(石川県立大学との共同研究)

写真:対照区
対照区
写真:PDMA使用
PDMA使用

苗を移植後6週間後の様子。右図は移植後2週間後にPDMAを1m²あたり1.6gを投与。
アルカリ性土壌では、土壌中の鉄を吸収できずに植物が十分に生育することができません(左図:対照区)。PDMAを撒くと土壌中の鉄を吸収し、右図のようにイネが旺盛に育つことができます。

カボチャ、マメ、トウモロコシの栽培実験

図:カボチャ、マメ、トウモロコシの栽培実験

カボチャやマメなどの非イネ科植物でもPDMA鉄錯体(Fe-PDMA)をアルカリ土壌に撒くと作物は元気に生育します。
トウモコロシのようなイネ科植物では、他の鉄キレート材よりも効果が顕著に現れます。

今後の展開

世界の30%を占めるアルカリ土壌で、食糧増産を行い、各地域での豊かな生活を支えるとともに、これまで不毛とされていた土地での緑化を行い、二酸化炭素の吸収促進することで温室効果ガスの削減にも貢献していきたいと考えています。

紹介動画