社会
ダイバーシティ&インクルージョン
基本的な考え方
多様な価値観・能力・経験を持った従業員が、互いに認め合い、相互研鑽して能力を発揮することが、新たな価値創出につながると考えています。そのための人材確保・育成や社内環境整備の充実に取り組んでいます。
女性の活躍推進
女性が自らのありたい姿に向けて、柔軟な働き方を選択できる環境の整備に取り組んでいます。当社では、研修などを通してキャリア形成を支援するとともに、ライフイベントと仕事の両立をサポートするための、育児支援制度や介護支援制度を軸とした「ナイスファミリー制度」に加え、「コアタイムのないフレックスタイム勤務」「在宅勤務制度」などを導入しています。職場や上司の理解を促進し性別に関係なく育児休業を取得しやすくするため、全ての基幹職に対して育児支援制度に関するe-Learningを実施するなど、意識面への取り組みにも注力しています。その成果もあり、2023年度には男性従業員の育児休業取得率は69.7%と前年度から大幅に向上しました。
2022年度 | 2023年度 | ||
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女性管理職比率※1(人数) | 1.0%(4名) | 1.3%(5名) | |
男性従業員の育児休業取得率※2(人数) | 33.3%(22名) | 69.7%(53名) | |
男女賃金差異※1 ※3(%) | 全労働者 | 66.5% | 65.4% |
正社員 | 68.2% | 68.2% | |
パート・期間社員 | 68.7% | 62.0% |
- 「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」の規定に基づき算出
- 「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」の規定に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」第71条の4第1号における育児休業等の取得割合を算出
- 当社の給与制度および評価制度において、性別による差異はなく、男女の勤続年数や基幹職の女性比率、給与水準の異なる職種別男女比率などが、男女における賃金差異の要因です
シニアの活躍
労働力人口の減少や現場力の維持・向上などの観点から、シニア社員(60歳以上)のパフォーマンスを最大限に引き出すことが重要と考えています。当社では、定年退職後から年金受給開始までの期間、希望者全員が継続して働くことができる「ナイスシニア制度」を設けています。シニア社員が安心感と高い意欲を持って働き続けられるよう労使で議論しながら、作業環境の整備や処遇の見直しを実施しています。また、今後のキャリアプランや働く意義をあらためて考える機会として、55歳到達者を対象に「働き方」や「退職金と年金」「健康と食生活」などをテーマとしたセミナーを開催するなど、シニア社員の自律的なキャリア形成に向けた取り組みも実施しています。2023年度の定年後の再雇用率は91%(117名中107名)となっています。
障がい者のイキイキ職場拡大
計画的な定期・中途採用を実施するとともに、障がいのある従業員が、製造現場や事務部門など幅広い職場で活躍できるよう、さまざまな施策に取り組んでいます。仕事への意欲や個人ごとに異なる特性と業務内容の適性を重視し、職場実習や面談を重ねたうえで、配属職場を決めています。配属後も、本人との定期面談や受入職場へのフォローなどの支援や配慮を「障がい者職場生活相談員」が中心となり実施するなど、能力を最大限に活かすためのさまざまな施策を実施しています。また働くうえでの障壁を取り除くため、バリアフリー整備やキャリア形成の支援、従業員の啓発活動や意識向上の取り組みを行い、受入職場の拡大にも注力しています。
キャリア採用
不確実性が高まっている現代において、事業を通じて社会課題をスピード感を持って解決するには、これまで以上に高度な知識や多様な経験、能力が必要と考えています。そのため、特にDXや研究開発などの重点領域において、キャリア採用に注力しています。2023年度は総合事技職において13名を採用しました。(中途採用比率:40.6%)
人材育成
基本的な考え方
「伝承」「感謝」「創造」をキーワードとする愛知製鋼グループの従業員全員が持つべき普遍的な価値観である「Aichi Way」を実践し、どのような環境でも必要とされる「基礎力」と変化に応じた必要な「専門性」を高め、主体的に考え行動できる人材の育成に取り組んでいます。
基礎力と専門性の強化
業務に必要な基礎力として、仕事の基本である「問題解決力」、強い現場力の基盤となる「技能」に加え、新たに「デジタルリテラシー」を加えた三つの柱で強化に取り組んでいます。問題解決力と技能は現地現物でOJT(現場実務教育)を通して身につけ、その効果をOff-JT(集合教育・研修など)で高めることを基本としています。デジタルリテラシー教育は個人の習熟度に応じた教育メニューをe-Learningを中心に提供することで、効率的にスキルアップを図っています。また自己啓発の取り組み支援として、通信教育や学習補助・資格取得奨励制度を充実させ、専門性の強化を図っています。
技能向上
業務遂行上必要な専門知識、技能の向上を図るため、階層別研修でPM実技研修を実施。また、社員が自主的に挑戦している技能検定に対して、奨励金や訓練環境・情報の提供などにより、技能向上をサポートしています。
研修指導員育成人数(累積)
技能検定合格者数
OJTとOff-JT
人材育成には「現地現物」での経験や学びが必要不可欠との考えから、OJTを積極的かつ計画的に実践しています。従業員一人ひとりが将来のキャリアプランを考え、その実現に必要な技能や知識の習得と能力開発に向けた業務アサイン・目標について、定期的に上司と話し合う仕組みを設けています。また各種研修では、OJTとOff-JTの相乗効果を目的に管理・監督者が後進を指導することや、参加者の意識を高めるために経営トップが自らの経験なども交えて講話するなど、研修の効果を高めるための工夫をしています。
デジタルリテラシー教育
競争力を維持・向上するには、スマートファクトリーなど製造現場での取り組みに加え、業務そのものや組織、企業文化・風土を変革するためのDX推進が必要と認識し、DX人材の育成強化に取り組んでいます。2023年度はデジタルリテラシー基礎教育を実施するとともに、DXアセスメントにより個人別にDXレベルを把握し今後の教育体系構築に活用することで、DXリーダーの育成を加速させています。また、「さわれるDX展示会」や「生成AI活用コンテスト」を開催するなど意識醸成を図り、全社でのDX推進に努めています。
幹部人材育成の取り組み
経営人材確保のため、継続的かつ計画的な育成に取り組んでいます。候補者の自覚を高めるため、経営役員自らが講師を務め、マインドセットに重点をおいた内容となっています。全社視点で「見て」「考え」、経営発想ができるマネジメントとリーダーシップの習得に加えて、胆力や視野、スピード感など、より高い職責を担うために必要な素養を磨く教育を実施しています。
人権尊重の取り組み
基本的な考え方
ビジネスにおける人権尊重の重要度が世界的に高まっていることに加え、価値観の多様化、サプライチェーンのグローバル化進展などを背景に、企業に対して人権に配慮した事業活動が強く期待されています。持続可能な社会の実現に向け、当社グループが社会に価値を提供し、広く社会から信頼され、選ばれ続けるために、ステークホルダーの皆様一人ひとりと真摯に向き合い、事業活動に関わる全ての人々の人権を尊重する取り組みを推進しています。
人権方針
愛知製鋼グループ人権方針は、当社共通の価値観である「Aichi Way」などをはじめとした、人を大切にする経営を明確化し、社内外への理解促進と意識向上を目的に、2023年3月に制定されました。本方針は、国際連合の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」に基づいており、当社グループ全ての役員・従業員が遵守すべき人権に関する最上位方針として位置付けるとともに、サプライヤーを含む全てのビジネスパートナーにも理解、支持するよう表明しています。
推進体制
経営企画本部長を統括責任者に、サステナビリティ推進室を事務局として、人事部・総務部・調達部など関連部門が連携し、活動計画の策定、各部門での取り組みの共有、人権に対する社会動向の共有・議論などを行い、その内容を適宜、経営トップミーティングに報告しています。取締役会は報告を受けることで、監視・監督しています。
会議体の役割
会議体 | 構成 | 人権尊重における役割 |
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取締役会 | 議長:取締役会長 社外取締役2名 社内取締役4名 |
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経営トップ ミーティング |
議長:社長 会長・副社長 カンパニープレジデント、本部長 |
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各部の役割
部門 | 役割 |
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人事部 |
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総務部 |
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調達部 |
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サステナビリティ推進室 |
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従業員への啓発・浸透
当社では、人権方針に基づいた行動の実践に向け、啓発・浸透活動を積極的に推進しています。階層別教育(新入社員・キャリア採用者、中堅社員、昇格者など)のなかで人権教育を実施しているほか、当社グループの役員・従業員全てが取るべき行動を具体的に定めた「愛知製鋼グループ企業行動指針ガイドブック」を改定し、周知徹底を図っています。2024年度は「コンプライアンス意識調査」を通じて、従業員の理解度・浸透度を確認するとともに、引き続き啓発活動を実施していきます。海外グループ会社においては、現地語に翻訳した人権方針を展開・周知するなどの取り組みを開始しました。
人権デューデリジェンス
事業活動に伴い発生する人権リスクに対応するため、人権デューデリジェンスに取り組んでいます。2023年度には第1ステップとして、国内グループ会社への自己調査票を通じたセルフチェックを実施しました。また、当社を含めた国内グループの主要なサプライチェーンにおける人権リスクを特定・評価するため、二次取引先以降の情報収集と人権リスクの机上調査を実施しました。2024年度は、当社や国内グループ会社における負の影響の特定や、その防止・軽減への取り組みを推進するほか、主要な調達品の一次取引先約100社に対して、自己評価アンケートなどを実施しサプライチェーンにおいて優先的に取り組むべき重要課題の特定を進めます。
相談窓口の設置
国内グループやサプライヤーも利用できる内部通報制度の導入や、社内におけるハラスメント、育児・介護、メンタルヘルスなどに関する相談窓口を設置しています。2023年度には新たに、社内外を問わず幅広いステークホルダーが利用可能な人権に関する相談窓口を設置するなど、苦情処理メカニズムの整備を進めています。
ステークホルダー等との主な対話機会
人権取り組みのロードマップ
健康・安全
健康
基本的な考え方
当社は創業以来、人を大切にする経営を実践してきました。人を大切にする経営とは、従業員が心身ともに健康で活動的な生活を送り「価値ある人生」と「従業員・家族の幸せ」を実現し、社会への価値提供につなげることです。「従業員の健康・安全」を重要課題と位置づけ、心と身体の健康保持・増進に努め、人にやさしい職場づくりを推進しています。
健康経営の実践
従業員の健康保持・増進に取り組むことは、組織の活力向上や生産性向上などの効果をもたらすと考え、持続的な成長のため「健康経営」の実践に注力しています。中期経営計画において健康に関する定量的な目標を定め、PDCAを回し継続的な改善に取り組んでいます。特に生活習慣病予防とメンタルヘルスを重点課題に掲げ、会社・健康保険組合・労働組合が連携しコラボヘルス※を推進することで諸施策の充実に努めています。こうした取り組み・活動が認められ、2024年には7年連続で「健康経営優良法人」に認定されました。
- 保険者と事業者が積極的に連携し、明確な役割分担と良好な職場環境のもと、加入者の予防・健康づくりを効率的・効果的に実行すること
体制図
生活習慣病予防
生活習慣を改善し健康増進を図ることを目的に、従業員の健康意識向上と行動変容を促すため「健康チャレンジ8」活動を推進しています。体重・朝食・飲酒・間食・禁煙・運動・睡眠・ストレスの8項目に関連する健康習慣の実践に向けて、職場対抗イベントを実施するなど従業員・職場が主体的に楽しく実践できる工夫をしながら健康づくりに取り組んでいます。禁煙についても全社をあげて取り組んでおり、2024年には世界禁煙デーである5月31日より、会社敷地内全面禁煙を開始しました。
メンタルヘルス
メンタル相談窓口の設置、一般従業員・管理監督者双方への教育、精神科顧問医によるメンタル不調者への相談対応等により、発生の未然防止と早期発見・早期ケアに取り組んでいます。また年に1回、全従業員を対象にストレスチェックを実施し、高ストレス者・高リスク職場へのケアなどを通じて、心の健康づくりを推進しています。
ハラスメント
個人の尊厳を不当に傷つけ、職場の秩序を乱すばかりでなく、経営に重大な影響を与える問題であると捉え、ハラスメントのない職場づくりに労使が一体となり取り組んでいます。ハラスメントを防止するための措置や会社・従業員が遵守すべき事項を定めた「愛知製鋼ハラスメントガイドライン」を策定し、全役員・従業員へ教育しています。またハラスメントに関する専用相談窓口を社内・社外に設置しているほか、職場ごとに相談員を置くことで組織的に発生の抑止・早期発見・早期対応に努めています。2023年度は15件の相談・通報が寄せられました。労使双方を委員とする調査委員会で速やかに精査・事実確認を行い、厳正な対処や管理監督者への教育などを通じ、再発防止に取り組んでいます。また、職場相談員自らがハラスメントに関する「相談員ニュース」を定期的に発行し、職場全員に展開することや、ハラスメントに関する教育を全従業員に実施することで、意識向上に取り組んでいます。
体制図
安全
基本的な考え方
当社グループは「安全は全てに優先する」との認識に立ち、安全衛生基本理念に基づき、構内で働く全ての人が安全・安心に働ける職場環境を構築し、「安全文化を有した企業」への変革を目指して取り組んでいます。
安全衛生基本理念
「安全な作業、確実な作業、熟練した作業、安全な作業は作業の入り口である。わたしたちは、まずしっかりとこの入口を通りましょう」
推進体制
安全と品質は、付加価値を生むための基盤であるとの認識に基づき、リスクマネジメント本部を全社のけん引役として、全社の活動を推進しています。安全は安全健康環境部を中心に、「全ての災害・事故はゼロにできる」という信念のもと、全社方針をカンパニー・本部、グループ会社に加え協力事業所とも共有することで、構内でともに働く人々が、安全かつ健康的に働ける職場環境の構築に取り組んでいます。
推進体制図
活動方針
未然防止に向けて、安全マネジメント、本質安全設計、安全人間づくりの三本柱を軸に安全活動を展開しています。
2023年度の取り組み
安全マネジメント
再発防止活動
社内・社外の災害で他部署でも起こりうる災害は、「災害・火災・ヒヤリ横展シート」を発行し類似災害の再発防止を図っています。
未然防止活動
リスクアセスメントで抽出されたハイリスクな作業をより安全に実施できるよう、改善および安全審査をすることで未然防止活動を促進しています。
本質安全設計
トップ点検会
経営層が、職場特有の危険源排除対策を現地現物で指導・共有することで、安全に関する取り組みの横展開を推進しています。
過去災害の学びと共有
過去に発生した災害の発生防止策が維持・継続されているかを確認することで、類似災害の再発防止を図っています。
安全人間づくり
安全キーマン育成
現場作業の安全を担う職長に、安全衛生の座学での知識習得と現地現物での安全診断技能の実習を2か月かけて行うことで、安全に意識の高い人材を育成し、企業としての安全衛生管理レベルの底上げに取り組んでいます。
技能競技大会
日常の安全意識と技能訓練の成果を、競技会を通じて確認・研鑽し合うことで、レベルアップに取り組んでいます。
労働災害の防止
当社では労働災害ゼロに向け、リスクアセスメントを実施しています。特に重大および重篤な災害につながるハイリスク作業に対しては、原因を取り除きリスクを低減する本質安全化による改善を計画的に実施することで、未然防止に努めています。また全労働災害に対して、背景を含めて発生した真因を明らかにしたうえで、当社グループおよび協力事業所へ周知することで再発防止に努めています。
休業災害件数・休業度数率
研究開発
基本的な考え方
2030年ビジョンの経営指針である「事業の変革で豊かな社会を創造」の実現に向け、事業戦略と一体化した研究開発を推進し、既存事業の変革と新たなビジネスの創出により社会課題の解決に貢献することが、当社の持続的成長につながると考えています。そのため2030年開発ビジョンを策定し研究開発の方針を定めるとともに、知的財産の有効活用に向けた取り組みを進めています。
研究開発による貢献分野
事業を通じた社会課題の解決に向け策定された2030年開発ビジョンでは、「自動運転」「自動車の電動化」「食料」「健康・安全」を重点領域と定め、次世代モビリティ開発と人々を豊かにする開発に注力し、新たな高機能商品を生み出すことで持続可能なスマート社会の実現に貢献します。
「鍛鋼一貫」「素材メーカー」の強み
原料である鉄スクラップに多種多様な成分を加え、強度や耐熱性などの特性・機能を持つ特殊鋼をつくり上げ、鍛造品に仕上げるまでを自社内で行う「鍛鋼一貫」の強みと創業以来培ってきた「素材メーカー」としての知見を活かし、社会の変化やニーズに応じた製品を開発しています。
鍛鋼一貫開発
素材技術の広がり
全社横断の標準化活動を開始
新製品や技術に対する基準や規格を制定する標準化活動は、品質と信頼性の確保につながり、研究開発の成果を広く社会に還元するとともに、グローバルビジネスでの競争力を確保するために必要不可欠です。当社では、2023年度に全社横断組織である標準化推進委員会を設置しました。2024年度には電炉業界で取り組んでいる、環境配慮型電気炉鋼材をはじめとした活動状況や、今後の計画を委員会で報告、議論するなど、積極的に取り組んでいます。
標準化推進体制
標準化推進委員会では、研究開発の責任者である開発本部長が最高標準化責任者CSO(Chief StandardizationOfficer)として委員長を担い標準化、研究開発、知的財産を一体的に統括しています。また、事業戦略との整合を取る部門別統括者には各カンパニーの事業統括部長と各開発部の部門長を配置し、標準化活動を実行する各部署の室長を部門別委員として、構成しています。本委員会を中心に、全社での戦略的な標準化活動を推進するとともに、社内啓発や標準化人材の育成に注力しています。
標準化推進体制図
知的財産
基本的な考え方
当社は「攻めの知財(事業拡大、挑戦)」「守りの知財(事業安定)」「基盤活動(人材育成、体制づくり)」を重点方針として定め、それぞれに目標を設定し、年輪的成長につながる知的財産活動の推進に取り組んでいます。
推進体制
開発本部長を委員長とし、各カンパニー・本部の統括部長および技術系部門の部門長を委員とする発明考案委員会を設置し、知的財産活動を推進しています。
発明考案委員会
新規ビジネス特許の増加と特許体制の強化
近年、新規ビジネス分野の開発を強化していることから、関連特許が増加しています。従来の知的財産の保護に加え、開発部門と知財部門が連携を強化し、新たな価値創造につながる戦略的な特許出願を目指した体制を構築し、特許の質の向上に取り組んでいます。今後も当社事業の競争優位性の維持・向上や、新規ビジネスの拡大に資する特許ポートフォリオの構築を目指し活動を推進します。
特許保有件数推移
新規ビジネス創出の取り組み
GMPSが実現する自動運転
当社は、独自に開発したMIセンサにより、厳しい環境下でも道路に配置した磁気マーカを検知することで、自動車の位置推定をミリ単位の高い精度で可能にする自動運転支援システム「GMPS」の早期事業化に取り組んでいます。2017年から国や地方自治体、民間企業・団体と多様な場所・環境での実証実験を30件以上実施し、性能・信頼性の面で高い評価を得ています。2022年にはJR東日本の気仙沼線BRTにおいて、柳津駅から陸前横山駅間で運用されている自動運転バスに採用されました。また2023年には工場構内における自動走行牽引車として実用化の目途が立ちました。これを契機に構内物流市場を注力領域に加え、事業化を推進しています。超高感度なMIセンサ、良品廉価な低磁力マーカ、独自の磁気ノイズ除去システムなどを実現した高い技術力を活かし、安全・安心なモビリティ社会構築に貢献します。
次世代電動アクスル用素材・部品開発
自動車の電動化に伴う電動アクスルの需要増加とレアアースなどの資源リスクに対応するため、電動アクスルの小型軽量化・省資源化に貢献するモータ・減速機用の素材・部品開発を推進しています。当社では、34,000回転/分の小型軽量モータに、小型高減速機を組み合わせ高速回転・高減速の次世代電動アクスルの技術実証に世界で初めて成功しました。その成果として得た材料設計や鋼材プロセスなどの要素技術・評価技術を活かし、さらなる高機能部品・素材の開発・実用化を推進しています。
品質・生産
基本的な考え方
当社は創業以来、材料設計から鋼材、鍛造、部品生産までを一貫して手掛ける「鍛鋼一貫」のモノづくり力にこだわり、自動車を中心とした産業界に欠くことのできない、高い強度と耐久性、加工性を有する高機能かつ高品質な材料・部品をお客様に提供し続けてきました。その良品廉価で安定的な製品供給体制を支えてきたのがTPS(トヨタ生産方式)、TQM(総合的品質管理)、TPM(全員参加の生産保全)による品質経営の実践とモノづくり力の進化です。これを基盤に、地政学リスクや急激な物価変動など不確実性が高まるなか、変化に強い生産体制の構築に取り組んでいます。
TPS活動
TPSの2本柱である「ジャスト・イン・タイム」と「自働化」の考えのもと、「徹底的なムダ排除による原価低減」を推進し、リーンなモノづくり力の向上に努めています。各カンパニーはTPSの視点で抽出した原価低減のための改善テーマを計画的に取り組み、その成果は年度末に行われるTPS大会を通じて全社に共有されます。
TPS実践のためTPS研修生制度を設け、人材育成にも注力しています。TPS手法を現場で有効に活用するためTPS推進リーダーとして選抜した人材に、座学による知識学習に加え、ケーススタディなどの実践的学習を行っています。また生産現場への導入をスムーズに進めるため、より幅広い従業員を対象とした教育を階層別に実施することで、役割に応じたTPS手法の習得を推進しています。この「原価低減」と「人材育成」の活動を両輪として、変化に強い柔軟な生産体制を構築しています。
改善テーマ
区分 | 構成 |
---|---|
省人 | 一人工の追求、設備の寄せ止め |
リードタイム短縮 | 生産の小ロット化、整流化 |
生産能力増強 | 非可動時間の低減、原単位の改善 |
工数低減 | 非可動時間の低減、MCT短縮※ |
- 一つの部品を機械で加工・組立するのに要する時間のこと(Machine Cycle Time)
TQM活動
TQMをベースとした品質経営の実践
当社はTQMの基本理念である「お客様第一」「全員参加」「絶え間ない改善」をベースに、「品質と仕事の質の向上」と「人と組織の活力向上」による品質経営の実践に向けて、TQM活動に取り組んでいます。
TQM活動の展開
お客様第一の自工程完結
トヨタ自動車の製造現場から生まれた「品質は工程で作り込む」の考えのもと、後工程を含めたお客様に不良品を流さない、常に満足させる製品を納期通りに届けるための「自工程完結」の活動を推進しています。製造現場はもとより、スタッフ部門にも展開し、競争力の強化を目指し取り組んでいます。
全員参加によるQCサークル活動
当社では職場における業務改善として、QCサークル活動の定着・拡大に取り組んでいます。仕事の問題点を見つけ、課題を明確化し、対策の立案・実行までを一貫してチームで取り組むことを通じて、人材育成と組織の活性化を図っています。2023年度は167サークルが活動を行い、14事例が社外で表彰されました。また、個人による創意工夫提案活動※は、毎月1件以上の提案を目標に設定し、1年間を通じて対象者全員が達成しています。その成果として2023年度には文部科学大臣賞を3件受賞しました。
- 従業員が日々の業務効率の向上や品質向上などにつながる工夫を提案することを会社として奨励、評価する活動。効果の大小、年間提案件数などにより褒賞を支給することで仕事への意欲向上を図る。
求められる品質に常に応えるために
自動車産業は100年に一度の変革期にあり、求められる品質も変化しています。当社では求められる品質に常に応えることで、競争力の維持・強化を図っています。そのための取り組みの一つとして、IoTやビッグデータ、AIなどの技術を活用できるエキスパート人材の育成を推進しています。トヨタグループ機械学習実践道場の場を活用し、「リヤシャフトの外観検査の自動化」などの具体的な改善テーマを題材に、改善から成果の測定までを実践の場で検証することで学習効果を高めています。
TPM活動
高品質な製品を効率的に生産するために、TPM活動に取り組んでいます。「全員参加」「初期清掃」「設備に強い人づくり」の三つをキーワードに、生産設備に故障が発生する前に分析・対策・改善することで、人の行動や現場の設備を変革し、故障ゼロ・不良ゼロの実現を目指しています。
オペレーターの自主保全を最重点活動とし、設備故障・品質不良・労働災害の三つのゼロや、生産ロス削減による生産性向上など、定量的な目標を立て活動しています。
2023年度には、自主保全士1級取得者数268人(取得率20.5%)、設備総故障件数31.5%削減(2021年度比)を達成するなど、着実に成果が表れてきています。今後もさらなるTPM活動の推進強化に向け、DXを活用したデータ解析や見える化などを通じて、品質向上と効率的な生産体制の維持に努めます。
品質に関する意識と風土の醸成
2023年度に判明した鋼材長さ公差外れ問題をきっかけに、経営陣と従業員全員が創業の原点に立ち戻り、二度と品質問題を繰り返さないための活動を開始しました。
活動区分 | 実施項目 | 内容 |
---|---|---|
人づくり(意識改革) | 対話交流会 | 経営陣と従業員が想いや価値観を議論・共有 |
品質再出発の日 | 当時の経験からの学びを風化させない活動 | |
特別展示会 | 発生の経緯や問題からの学びなどを全従業員に周知 | |
職場風土醸成 | 職場グループディスカッション | 再発防止のためにすべきことを全ての職場で議論 |
企業行動指針ガイドブック改定 | コンプライアンスの本質、企業としての責務をあらためて各自が認識し、学び直す機会 | |
インナーブランディング | 全社が一丸となり、品質向上に向けてよい仕事をするため、あらためて企業理念・価値観を再認識 | |
仕組み・組織の強化 | リスクマネジメント本部の新設 | 全社横断でコンプライアンス・ガバナンスを強化・徹底 |
内部通報制度 | 利用性や利便性の向上、社外への相談窓口を増設するとともに、周知活動を実施 |
ステークホルダーとの関係
基本的な考え方
当社は多様なステークホルダーとの関係に基づき事業活動を行っており、ステークホルダーと良好な関係を築くことは、企業価値向上にとって重要と考えています。ステークホルダーとの積極的な対話を通じて、社会のニーズや当社への期待を企業活動に取り入れるとともに、当社への共感を得ることで、お客様、株主・投資家、従業員、サプライヤー、地域社会などすべてのステークホルダーとともに成長していきます。
ステークホルダー | 対話促進の取り組み | 2023年度実績 |
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お客様 |
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問合せ件数 1,225件 |
株主・投資家 |
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機関投資家との対話回数(延べ)45社 |
従業員 |
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労使懇談会・協議会開催数 19回 |
サプライヤー |
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参加社数 125社 |
地域社会 |
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従業員の社会貢献活動参加率 78% |
従業員との対話促進
当社が社会に価値を提供し、持続的成長を遂げるには、価値を生み出す源泉である従業員の高いエンゲージメントが欠かせません。従業員との対話を積み重ね、働きやすい職場づくり、人事制度の整備を進めるとともに、従業員のエンゲージメントを高める取り組みを推進しています。創立80周年となる2020年には「労使相互信頼でいかなる困難も乗り越え、『笑顔あふれる会社』を全員で目指す」ことを労使相互で確認、共有のうえ「労使協調宣言」として調印しました。また、労使がこれまで以上に本音で意見を交わし、変革のスピードを上げていくために、労使の会議体を見直し、カンパニー・本部単位での労使懇談会を年2回開催しています。
カンパニー・本部レベルの身近な課題や対応策について、労使が率直に意見交換し、理解を深め、協力しあえるよう努めています。2023年度にはコロナ禍で不足しがちとなっていた職場コミュニケーションを活性化するため、職場での旅行や懇親会に対し会社が支援する補助金を増額するなどしました。また、多様性が尊重され、風通しがよく、誰もが働きやすい職場づくりに向けて、全従業員を対象にしたモラールサーベイの実施、現場の休憩所改善、立体駐車場の新設や独身寮の建て替えなど、職場環境の整備にも注力しています。
エンゲージメントを高める取り組み
当社では全従業員を対象としたエンゲージメント調査を毎年実施しています。仕事に対する意欲、仕事を通した成長の実感や上司の支援、職場風土など、さまざまな観点で分析した結果を踏まえ、各種人事施策の展開や、各職場のマネジメント改善に取り組んでいます。また、管理職は、有識者の講演会やリーダー研修などを毎年受講するなど、マネジメント力向上に取り組んでいます。2023年度には、職場ごとに分析を深め、課題を明確化することを目的に、調査を刷新しました。今後は、新たに立ち上げるリーダー研修に、顕在化した課題への対応を織り込むなどし、職場風土の改善と取り組みの成果を確認することで、継続的に取り組んでいきます。
エンゲージメント評価の推移
サプライヤーとのパートナーシップ強化
当社製品の製造には、サプライヤーから供給される優れた原材料や部品、技術が不可欠です。また、さまざまなサステナビリティ課題への取り組みにおいてもサプライヤーとの協働が重要であるとの考えに基づき、緊密なコミュニケーションにより信頼関係を築き、ともに成長し、成果を分かち合うことのできる持続可能なサプライチェーンの構築・強化に取り組んでいます。
毎年4月に「豊鋼会※総会」を開催し、事業環境や会社方針を説明し、安全・コンプライアンス・サステナビリティに関する取り組みや目標を共有しています。2023年度は、当社がサプライヤーに期待する行動をより具体化した仕入先サステナビリティガイドラインを定め、その内容に基づいた活動を推進するよう求めています。豊鋼会総会で125社全社へ配布し、周知するとともに協力を呼びかけました。また安全・品質などの観点から、各社の状況に応じたアドバイスをする支援活動や、改善事例共有会やVA展示会を通じた相互研鑽、優良事例の横展開など、サプライチェーン全体での改善活動に取り組んでいます。
- 当社とのパートナーシップ・相互信頼に基づき、相互発展を目指すことを目的とした仕入先で構成された団体
サプライチェーン強靭化に向けて
自然災害や事故に加え、地政学リスクが高まっている中、当社では原材料・資材の安定調達に注力しています。仕入先の製造拠点の立地や原産地、工程などの情報を把握し、リスクを数値化することで、マルチソース化や在庫確保など必要な対策を取るとともに、初動や復旧対応を迅速に行える体制を構築しています。
地域社会との関係強化
「良き企業市民」として、社会貢献活動などを通じた地域社会とのコミュニケーションが重要との認識に立ち、地域社会との共創活動に取り組んでいます。具体的には「クリーン」「グリーン」「クリエイティブ」「ボランティア支援」を四本柱として活動を展開しています。このような活動を展開することは、地域社会との関係強化に加え、従業員の「社会課題の解決」に向けたマインド醸成と事業活動へのフィードバックにつながると考えています。これからも持続可能な地域社会の実現に向け、従業員一人ひとりが地域社会に貢献できるよう、積極的に取り組んでいきます。
4本柱 | 主な活動 |
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クリーン |
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グリーン |
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クリエイティブ |
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ボランティア支援 |
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